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神戸地方裁判所 昭和50年(ワ)126号 判決 1976年4月20日

原告

金正達

ほか五名

被告

神戸タクシー株式会社

ほか一名

主文

被告等は各自原告金、同姜京子に対し各金九三八、四五七円及び各内金八五八、四五七円に対する昭和四八年四月一三日以降完済に至る迄年五分の割合による金員、その余の原告等に対し各金一、八八六、九一五円及び内金一、七一六、九一五円に対する同四八年四月一三日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

原告等その余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分しその一を原告等その余を被告等の負担とする。

この判決は第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

(当事者の求める裁判)

原告 被告等は、各自、原告金正連同姜京子に対しそれぞれ金一、六五〇、〇〇〇円、その余の原告等に対しそれぞれ金三、三〇〇、〇〇〇円及び右各金員に対する昭和四八年四月一四日から完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

仮執行宣言。

(原告等の請求原因)

一  事故の発生

昭和四八年四月一三日午後九時四〇分頃訴外姜文植同乗訴外李雙鳳運転普通貨物自動車と被告梶原運転の普通乗用車が神戸市灘区薬師通一丁目四番地の一七先交差点で衝突し、右訴外姜文植は右衝突の際受けた頭蓋骨骨折等の傷害により同日午後一〇時頃同市同区原田通一丁目三ノ一七吉田病院で死亡した。

二  責任原因

(一)  被告会社は本件普通乗用車を所有し自己のため運行の用に供していた。

(二)  事故現場交差点は交通整理の行われていない左右の見通しの悪い交差点であるから、被告梶原は交差点直前で徐行或は一時停止をし左右道路から進入する車両の有無を確認の上、右交差点に進入すべき注意義務があるのに被告梶原は之を怠り前記乗用車を運転し東西道路から右交差点に進入する車両の有無に注意を払うことなく制限速度四〇粁を一〇粁超える時速五〇粁以上の速度で南進し、本件交差点の通過をはかつた過失により、右交差点に東方から進入した訴外李運転の自動車右側面に自車を衝突させた。

三  権利の承継

原告金正連は姜文植の妻であり、その他の原告等は同人と原告金との間の子であり、姜文植は韓国籍を有し、且戸主でないから韓国民法に従うときは、原告等は姜文植の共同相続人として、原告金、同姜京子は一〇分の一、その他の原告等は五分の一の割合で亡姜の権利義務を承継した。

四  損害

(一)  逸失利益 二三、八八九、四〇六円

亡姜は本件事故当時日本包装運輸株式会社に勤務し、昭和四七年の給料、賞与は二、四一六、〇〇〇円であり、本件事故当時五一才(一九二二年一二月二三日生)、今後の就労可能年数は一六年、同人の家族は事故当時同人及び原告姜博同姜一郎を除く各原告、及び原告姜茂夫の妻の六人であり、同居の親族として金の妹及び姜の甥二人であり、同人の生活費は三四五、一四三円と算出されるから、年収から生活費を控除した毎年の純利益から新ホフマン係数により年五分の中間利息を控除し、逸失利益の現在値を求めると二三、八八九、四〇六円となる。

(2,416,000円-345,143円)×11.536=23,889,406円

(二)  慰藉料 八、〇〇〇、〇〇〇円

(三)  弁護士費用 各二五〇、〇〇〇円

五  損害填補

原告等は自賠責保険より一〇、〇〇〇、〇〇〇円を受領した。

六  被告等の過失相殺の主張について

被告等は本件事故については訴外李の過失が大であり、梶原の過失と競合し本件事故が発生したから過失相殺がなさるべきである旨主張するが、李と姜とは単なる友人であるに過ぎず、姜と身分上乃至生活関係上一体をなすような関係にあるものとは言い得ないし、姜は李運転自動車に乗車を強要したこともなく、又李が姜の指示により自動車を運行していた事実もないから、仮りに李に過失があるとしても、姜の損害につき李の過失を斟酌する要はない。又李は酒酔い或は酒気帯びの状態で自動車を運転していた事実はないから、姜が酒に酔つていた事実があつたとしても本件事故の責任にかかわりがない。

尚附言すると、李は同交差点手前で一旦停止したが安全確認の位置が不適確であつたため本件衝突事故となつたものであるが、同交差点には時速一〇粁で進入したものであり、若し被告梶原が充分な徐行を行つておれば李自身衝突を回避することができる態勢にあつた。従つて事故の態様から考え被告梶原の過失の方が重大である。

七  以上の次第で前記損害額より填補額を控除し前記権利承継の割合により原告等が取得した損害中、原告金正連、同姜京子については、各金一、六五〇、〇〇〇円、その余の原告等については金三、三〇〇、〇〇〇円及び之に対する本件事故の日の翌日である昭和四八年四月一四日から完済に至る迄民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告等の答弁並びに抗弁)

一  原告主張一、二、五の事実は認める。三、四の事実は不知

二  損害額のうち、逸失利益については、当時姜はその給料のうちから毎月九〇、〇〇〇円を原告金に交付し、残額を自己が費消していたのであるから、原告等が姜文植から受けていた利益は毎月九〇、〇〇〇円であり、右額を以て逸失利益算定の基礎となる生活費を控除した収入とさるべきである。然らずとしても、姜文植の収入額に対し少くとも三五%を生活費として控除さるべきである。

三  過失相殺

亡姜文植と李とは、以前から朝鮮総連に属し懇意な間柄であり、事故当日も護国神社で行われた花見の会に李の運転する自動車に無償で同乗し往復していた。従つて、亡姜もその遊興のために、李車両の運行に参画していて、事故当時一時的にせよ、人的、社会的なつながりがあつたのであるから、李の過失は原告側の過失として斟酌されるべきである。

仮りに、李の過失自体が原告側の過失にならないとしても、亡姜及び李は共に相当量の飲酒をしており、李の車両の運転が危険な状況であるのを知りながら、亡姜は李に車両を運転させ、自らも之に同乗したこと自体重大な過失があり、相応の過失相殺がなさるべきである。そして李は前記乗用車を運転して東方より西進し本件交差点に進入しようとしたところ、同所には西進車は一且停止の標識があるのに徐行したのみで、優先道路である南北道路の交通状況を注意することなく進行したため、同道路を南進して来る被告車両を現認すべかりしに、認めなかつた過失があり、その過失は七〇%以上と考えられる。

(証拠関係)〔略〕

理由

一  原告主張一、二の事実は当事者間に争がない。

二  損害

(一)  逸失利益

成立に争のない甲第八号証、原告金本人尋問の結果成立の真正を認めることができる甲第九号証と右本人尋問の結果によれば、亡姜は一九二一年一一月一〇日生、本件事故当時五一才で、株式会社京町組を主宰していたが、その後日本包装運輸株式会社に合併され当時同会社の常務として勤務し、同四七年の給与、賞与は二、四一六、〇〇〇円であつたことが認められる。

従つて亡姜は、本件事故がなかつたなれば、その職業、地位からして平均余命の範囲内で尚一二年間稼働可能と考えられ、生活費を三〇%として之を年収より控除しホフマン式計算法により中間利息を控除し死亡時の現在値を求めると一五、五八四、五七七円となる。

2,416,000円×0.7×9.2151=15,584,577円

被告等は生活費を控除した収入として九〇、〇〇〇円を算定の基礎とすべきであると主張するが、その主張の合理的根拠はない。

(二)  慰藉料 四、〇〇〇、〇〇〇円

三  権利の承継

成立に争のない甲第五号証、第八号証によれば訴外姜文植と原告等との身分関係はその主張の通りであり、訴外姜文植の国籍は韓国であることは明かであるから、相続については被相続人の本国法である韓国民法によるべきである。そして韓国民法によれば財産相続人は被相続人の直系卑属であり、妻は直系卑属と同順位で共同相続人となるところ、同順位の相続人数人あるときは、その相続人は均分、但し妻の相続分は直系卑属と共同で相続するときは、男子の相続分の二分の一、女子の相続分は男子の相続分の二分の一であるから、前記損害金合計一九、五八四、五七七円のうち原告金及び原告姜京子は各一、九五八、四五七円、その余の原告等は各三、九一六、九一五円を相続により取得した。

四  損害の填補

本件事故について自賠責保険より一〇、〇〇〇、〇〇〇円が支払われたことは当事者間に争がないから、前記相続分によれば原告金、同姜京子の填補額は各一、〇〇〇、〇〇〇円、その余の原告等のそれは各二、〇〇〇、〇〇〇円となり、之を前記権利承継により原告等の取得した損害金より控除すれば、原告金、同姜京子の損害金は各九五八、四五七円、その余の原告等のそれは各一、九一六、九一五円となる。

五  被告等の主張について。

(一)  過失相殺について。

成立に争のない乙第八、九号証、証人李雙鳳の証言、原告金本人尋問の結果によれば、訴外李雙鳳は朝鮮総連元町分会長、亡姜は右分会副委員長であり互に交際があつたところ、事故当日は朝鮮総連上筒井分会において護国神社境内での夜桜見物を催し、亡姜も訴外李と共に之に招かれ、同日午後六時頃から九時頃迄酒宴の席に連なつていたこと、亡姜は右会場えの往復とも訴外李運転の乗用車に同乗していて、その帰途本件事故に遭つたものであること、事故当夜は寒く、訴外李はビール三杯程度を飲んだ後、宴半ばにして駐車中の自車の中にいて本件事故が訴外李の酒酔運転によるものでないことが認められる。

そして被害者である同乗者自身に固有の過失がない場合でも、飲酒運転の車に之を知りながら同乗したり、無免許運転であることを知りながら同乗した場合の如く、運転者の運転に危険性のあることを知悉しながら、敢て同乗したようなときは、過失相殺を認めるべき場合があるであろうが、本件事故の場合は之に該らないから、訴外李に一旦停止の標識のあることを無視し交差点に進入した事実があつたとしても、亡姜の損害につき過失相殺の必要はなく、尚又亡姜と訴外李の前記程度の関係から考えると亡姜の慰藉料算定にあたり訴外李の過失を斟酌する必要もない。

(二)  弁済について。

証人李雙鳳の証言、原告本人尋問の結果により訴外李より原告等に対し一、〇〇〇、〇〇〇円が支払われたことが認められ、前記相続分に応じ、原告金、同姜京子の前記損害に各一〇〇、〇〇〇円、その余の原告の損害に各二〇〇、〇〇〇円が充当されることになるから原告金、同姜京子の損害は各八五八、四五七円、その余の原告の損害は各一、七一六、九一五円となる。

六  弁護士費用

事件の難易、請求額、認容額を考慮するときは被告等に負担させるべき弁護士費用は原告金、同原告京子につき各八〇、〇〇〇円、その余の原告等につき各一七〇、〇〇〇円とするのが相当である。

七  以上の次第で原告等の本訴請求は、原告金、同姜京子については各金九三八、四五七円及び弁護士費用を除く各金八五八、四五七円に対する事故の日である昭和四八年四月一三日以降完済に至る迄民法所定年五分の割合による遅延損害金、その余の原告等については各金一、八八六、九一五円及び弁護士費用を除く各金一、七一六、九一五円に対する同様同四八年四月一三日以降完済に至る迄同様年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容すべきであるが、その余の請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用負担については、民事訴訟法第九二条第九三条、第八九条、仮執行宣言については同法第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 松浦豊久)

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